2026年6月11日 第44回 土砂災害防止『全国の集い』in滋賀 その2 砂と暮らしてきた滋賀の歴史と森林の力と限界
こんにちは。滋賀県議会議員の野田武宏です。
前回に続き、令和8年6月11日に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで開催された「第44回 土砂災害防止『全国の集い』in滋賀」について、3回に分けて報告します。
第2回となる今回は、基調講演と特別講演を通じて学んだ、滋賀と砂の歴史、そして気候変動時代における森林と土砂災害の関係についてです。
基調講演では、筑波大学人文社会系准教授の渡部圭一さんから、「『砂』と暮らした地域の歴史に学ぶ」と題したお話がありました。

滋賀といえば琵琶湖を思い浮かべる方が多いと思います。僕自身も、防災を考える時には、琵琶湖や河川、水害、治水という視点で捉えることが多くありました。
しかし、今回の講演を通じて改めて感じたのは、滋賀は「水」と向き合ってきた県であると同時に、「砂」とも向き合ってきた県だということです。
山から流れ出た砂は、川へ運ばれ、川に堆積し、天井川をつくってきました。そして、その砂はさらに琵琶湖へと運ばれ、湖岸の砂浜も形づくってきました。

つまり、砂は単に災害の原因となるだけではなく、滋賀の地形や景観、地域の暮らし、産業とも深く結びついてきた存在でもあります。
講演では、江戸時代や明治時代の滋賀には、赤茶色や白っぽく見える禿山が広がっていたことも紹介されました。今のように緑に覆われた山ばかりではなく、木が少なく、地肌が見える山が県内各地にあったということです。
また、北比良では、花崗岩の石材業が盛んで、山で採った石を浜で加工し、船で出荷していたそうです。一方で、採石によって山が荒れれば、砂が流れ出し、下流の集落や田畑に影響を与えます。
そのため、地域では採石に関する約束ごとや、川の河口に溜まった砂を取り除く「砂流し」、用水に入り込む砂を処理する仕組みなど、行政による砂防が本格化する前から、地域の人々が砂と向き合う知恵を積み重ねてきました。

この話を聞いて、滋賀が「近代砂防発祥の地」とされる意味を、少し違った角度から考えることができました。単に行政による砂防事業が早く始まった場所というだけではなく、山から川へ、川から琵琶湖へと動く砂と向き合いながら、地域の人々が暮らし、生業を営み、災害に備えてきた土地でもあったのだと感じます。
続く特別講演では、平松晋也さんから「気候変動に伴う森林の土砂災害抑制効果の変化について」と題したお話がありました。

森林には、土砂災害を防ぐ力がある。
これは、多くの方が感覚的にも持っている理解だと思います。実際、木の根は斜面の土を支える働きを持っています。地中に伸びる根が杭のように働いたり、横に広がる根が土をつなぎとめたりすることで、斜面が崩れにくくなる効果があります。だからこそ、森林を守ること、山を健全な状態に保つことは、防災の面からも非常に重要です。
ただし、今回の講演で強く感じたのは、「森林があるから大丈夫」と単純には言い切れない時代になっているということです。

近年は、気候変動の影響により、短時間に非常に強い雨が降るケースが増えています。雨の量が多くなれば、斜面にかかる力も大きくなり、森林の根が持つ斜面を支える力にも限界が出てきます。
少しの雨であれば、森林が斜面を支える力は大きな意味を持ちます。しかし、極端な豪雨や大規模な地震のように外から加わる力が非常に大きい場合、森林だけで土砂災害を防ぎ切ることはできません。特に、木の根が届かないような深い場所から斜面が崩れる深層崩壊に対しては、森林の力には限界があります。
さらに、森林の根が持つ「つなぎとめる力」が、条件によっては崩壊の範囲を広げる可能性もあるという説明も印象的でした。
もちろん、これは「森林が悪い」という話ではありません。森林には斜面を安定させる大切な役割があります。しかし、防災において大切なのは、何か一つの対策に過度に頼らないことだと感じました。

森林整備は重要です。砂防堰堤などのハード対策も重要です。危険箇所を知ること、避難情報を正しく受け取ること、地域で声をかけ合うことも重要です。
つまり、土砂災害対策は「森林があるから安全」「砂防施設があるから安全」といった単純なものではなく、地形、地質、雨の降り方、山の状態、地域の暮らし、避難体制を組み合わせて考える必要があります。
基調講演で学んだ「砂と暮らしてきた滋賀の歴史」と、特別講演で学んだ「森林の力と限界」は、一見別々の話のようで、実は深くつながっています。
山の状態が変われば、流れ出す砂の量も変わります。雨の降り方が変われば、災害の起こり方も変わります。そして、地域の暮らしや土地の使い方が変われば、備えるべき課題も変わっていきます。
滋賀県には、山、川、集落、農地、そして琵琶湖が近接する地域が多くあります。土砂災害は山の中だけで完結するものではなく、下流の暮らしや交通、農業、湖への影響にもつながっていきます。
今回の基調講演と特別講演を通じて、気候変動時代の土砂災害対策は、歴史から学ぶ視点と、科学的な知見を結びつけて考えなければならないと感じました。
次回は、パネルディスカッションを中心に、伊吹山の裸地化やシカの食害、林野火災、地域防災、そしてこれからの砂防のあり方について書きたいと思います。
野田たけひろ
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