2025年10月22日 地方創生・公共交通対策特別委員会 県外行政調査報告
令和7年10月20日から21日にかけて、地方創生・公共交通対策特別委員会として、広島県東広島市および岡山県岡山市を訪問し、先端産業と地域公共交通の現場を調査しました。
今回の調査では、「成長分野の産業立地」「技術人材の育成」「持続可能な地域交通」という3つのテーマで、現場から多くの学びを得ました。
●広島大学 半導体産業技術研究所
初日は、広島大学半導体産業技術研究所を訪問し、寺本章伸教授から、日本の半導体産業の現状と課題について講義を受けました。
教授は「半導体は半分しか電気を通さない、半分通すもの」という原理的な説明から始め、わずか10ミリメートルの中に数十億個のトランジスタが集積する超精密な世界を紹介されました。

日本はロジックデバイス分野でTSMCに2〜3年遅れている一方、DRAMやフラッシュメモリでは高いシェアを維持していること、2030年には現在の倍の工場が必要になるとの見通しなど、産業構造の変化を実感しました。
教授は「興味のある研究をするだけではなく、課題解決型の研究開発が求められる」と述べ、実装力を伴う人材育成の重要性を強調。大学と量産工場の連携、実務的な教育の拡充が不可欠であると指摘されました。
また、九州大学や高専との連携によって学生を早期に研究現場へ送り込む教育モデルや、東広島市職員が企業版ふるさと納税の説明を担うなど、行政・大学・企業が一体となった地域の取り組みも紹介されました。
●株式会社 広島テクノプラザ
続いて訪問したのは、東広島市鏡山に位置する株式会社広島テクノプラザ。
同社は、国・県・民間が連携して整備された全国的にも珍しい「リサーチパーク」の中核施設であり、頭脳立地法に基づく第三セクターとして運営されています。
企業の技術高度化支援、研究機器の共同利用、技術者の研修などを通じて、地域産業の競争力を支えています。
特に自動車分野での技術支援が盛んで、マツダなど地場企業がEVやハイブリッド車を開発する際、テクノプラザが提供するEチャンバー(電磁波試験装置)やダイナモメータを活用して試験を行うとの説明がありました。
電磁波を遮断するカーボンファイバー製シャフトなど、先進的な設備が整い、全国でも4か所しかない高度な試験環境を備えています。
また、社会人技術者の研修だけでなく、高校生や高専・大学生が設備に触れる機会の創出も課題として挙げられました。滋賀県においても、こうした「実践を通じた学びの場」を設けることで、将来の技術者育成や産業立地促進につなげられると感じました。

●両備ホールディングス株式会社
2日目は岡山市の両備ホールディングス株式会社を訪問し、町田敏章専務理事から、地域公共交通の維持・再編に向けた同社の取組を伺いました。
同社はバス、鉄道、フェリーなど複数の交通モードを保有し、「守る交通」から「選ばれる交通」への転換を掲げています。
瀬戸内市や玉野市では、コロナ禍で民間運行が困難となった路線を市営化し、両備が委託運行を担う形に移行。行政との役割分担を明確にしながら、地域の移動手段を守り抜く姿勢が印象的でした。
岡山市内では、都心・郊外・過疎地の3層構造に分けて運行を設計。都心部は民間で自立、郊外は市の支援、過疎地はデマンド交通で行政主導とする仕組みを整えています。
さらに、「1日25往復(おおむね1時間2本)」という最低限のダイヤ水準を設定し、利用者が安心して使える環境づくりを進めていました。
町田専務は「本来、県がグランドデザインを描き、市町が動くべき」と述べ、広域交通政策の必要性を強調。人口減少地域での交通再編を進める上で、行政・民間・住民が協働する仕組みの重要性を再認識しました。
公共交通が市民生活の「基盤」であるという共通理解が行政にも浸透し、岡山市の市長選では交通問題が争点にならなかったという話も印象的でした。
今回の調査で共通して感じたのは、「現場の課題を解決する力」と「連携による仕組みづくり」の重要性です。
広島大学では、研究と産業を結ぶ人材育成の仕組みを、テクノプラザでは企業支援と教育を一体化した技術基盤を、両備ホールディングスでは交通を“地域経営”として支えるモデルを確認しました。
これらはいずれも、地域の自立と持続可能な成長に直結する実践例です。滋賀県においても、大学・企業・行政が連携し、人材育成と産業支援、公共交通の維持を一体的に進めることが、地方創生の鍵になると改めて実感しました。
滋賀県議会議員 野田武宏