2026年6月11日 第44回 土砂災害防止『全国の集い』in滋賀 その3 近代砂防発祥の地 滋賀からの警鐘
こんばんは。滋賀県議会議員の野田武宏です。
6月11日に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで開催された「第44回 土砂災害防止『全国の集い』in滋賀」について、3回に分けて報告しているシリーズ。第3回となる今回は、パネルディスカッション「近代砂防発祥の地 滋賀からの警鐘」を中心に、伊吹山の裸地化やシカの食害、林野火災、地域防災、そしてこれからの砂防のあり方について書きたいと思います。
パネルディスカッションは、「近代砂防発祥の地 滋賀からの警鐘」をテーマに、次の皆さんにより行われました。
コーディネーター
松本浩司さん
北海道大学客員教授、元NHK解説主幹
パネリスト
里深好文さん
立命館大学教授
古市秀樹さん
田上郷土史料館員、元田上山砂防協会副会長
高橋滝治郎さん
ユウスゲと貴重植物を守り育てる会 会長
尾崎康人さん
滋賀県県土整備部流域政策局砂防室長
コメンテーター
國友優さん
国土交通省砂防部長
副題には、「田上山砂防150年の歴史、変わりゆく土砂災害の要因」と掲げられていました。
これまでの2回では、滋賀が砂と向き合ってきた歴史や、気候変動によって森林の土砂災害抑制効果にも限界が出てきていることについて書きました。今回のパネルディスカッションでは、それらの話が、現在の滋賀で起きている課題と重なり合って見えてきました。
特に大きなテーマとなったのが、伊吹山の裸地化です。
伊吹山は、豊かな植生や花の山として知られ、地域の象徴でもあります。僕自身も、2010年に伊吹山の山頂まで行ったことがあります。
当時の写真も残っていますが、その時に見た伊吹山は、豊かな自然や花の山という印象が強く残るものでした。
それから16年が経ち、今回のパネルディスカッションで示された伊吹山の姿は、当時の記憶とは大きく異なるものでした。シカの食害などによって植生が衰退し、山肌がむき出しになる裸地化が進んでいる現状を知り、時間の経過とともに山の姿がここまで変わってしまうのかと、強い衝撃を受けました。
草木が失われると、雨水を受け止める力や、土をつなぎとめる力が弱くなります。その結果、雨が降った時に土砂が流れ出しやすくなります。
令和6年7月には、伊吹山からの土砂流出により、山麓の集落に被害が発生しました。僕自身も、その後に現地でボランティア活動に参加しましたが、雨を含んだ土砂を取り除く作業は本当に大変でした。
山の状態が変わることは、山の中だけの問題ではありません。集落の暮らしや道路、農地、そして地域の安心に直結する問題なのだと、現場でも強く感じました。
印象的だったのは、伊吹山の問題が、一つの山だけの特別な課題ではないという指摘です。
かつて滋賀の山々は、人々が木材や燃料を得るために山を利用し続けたことで荒廃しました。一方で現在は、人と山との関わりが薄れ、そこに気候変動、シカの食害、少雪、集中豪雨、さらには林野火災といった新たな要因が重なっています。
つまり、山が荒れる理由そのものが、昔とは大きく変わってきています。
田上山でも、生活様式の変化によって人が山に入る機会が減り、松枯れやナラ枯れ、倒木、落葉の蓄積など、新たな里山の課題が出ているとの話がありました。さらに、雨が少なく乾燥した状態が続けば、林野火災のリスクも高まります。
そして火災によって地表を覆う草木が失われれば、その後に雨が降った時、土砂が流れ出しやすくなる可能性があります。
大雨だけでなく、雨が降らない期間が長くなることも災害リスクになる。
この視点は、とても重要だと感じました。気候変動というと、豪雨や台風を思い浮かべがちですが、乾燥、渇水、火災、そしてその後の土砂流出まで含めて考える必要があります。
パネルディスカッションでは、砂防堰堤などのハード対策に加え、植生回復、シカ対策、監視体制、地域連携の重要性も語られました。
伊吹山では、防鹿柵の設置や植生保護の取組が進められています。行政だけでなく、地域、企業、学校、ボランティアなど、多くの人が関わりながら山を守ろうとしていることも紹介されました。
ただ、植生の回復には長い時間がかかります。柵を設置すればすぐに山が元に戻る、という簡単な話ではありません。だからこそ、継続して見守り、手を入れ、次の世代につないでいく視点が欠かせません。
また、最後に紹介された米原市内の中学生が描いた伊吹山の絵も、とても印象に残りました。かつて緑や花の山として親しまれてきた伊吹山が、今は茶色く、傷ついた姿として描かれていました。
本来であれば、子どもたちにとっての伊吹山は、緑豊かで、花が咲き、地域の誇りとして描かれる山であってほしいと思います。しかし、今の子どもたちが目にしている伊吹山は、裸地化が進み、土砂が流れ出す傷ついた山でもあります。
その姿が、特別な説明をしなくても絵に表れるほど当たり前になっているのだとすれば、それはとても重いことです。伊吹山を、もう一度、緑や花の豊かな山として次の世代につないでいく。そのことも、これからの砂防や防災を考えるうえで大切な視点だと感じました。
人口減少が進む中で、地域の安全をどう守るのか。山と人との関わりが薄れていく中で、誰が山を見守り、誰が災害の記憶を伝えていくのか。これは、砂防だけでなく、これからの地域づくり全体に関わる課題でもあります。
今回の集いを通じて強く感じたのは、滋賀で起きていることは、滋賀だけの問題ではないということです。
伊吹山の裸地化、シカの食害、林野火災、気候変動による雨の降り方の変化。これらは、これから全国各地で起こり得る課題でもあります。近代砂防発祥の地である滋賀だからこそ、過去の歴史に学びながら、今起きている変化を全国への警鐘として発信していく必要があるのだと思います。
砂防は、山の中だけの話ではありません。山を守ることは、川を守ることにつながり、川を守ることは、地域の暮らしや農地、交通、琵琶湖を守ることにもつながります。
災害を完全になくすことはできません。しかし、被害を減らすことはできます。そのためには、ハード整備、森林や植生の回復、シカ対策、避難情報、地域のつながりを組み合わせて考えることが必要です。
3回にわたって報告してきた今回の「全国の集い」は、滋賀の砂防の歴史を知るだけでなく、気候変動時代における防災・減災のあり方を考える大変貴重な機会となりました。
僕自身も、伊吹山でのボランティア経験や、これまで各地の災害現場で感じてきたことを忘れずに、県政の中で、土砂災害対策や地域防災力の向上にしっかり取り組んでいきたいと思います。
野田たけひろ
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